Home / ファンタジー / 聖衣の召喚魔法剣士 / 3   着せ替え人形

Share

3   着せ替え人形

Author: KAZUDONA
last update Last Updated: 2025-11-22 15:37:18

 執政官のアステリオンに連れられて城内を歩く。玉座の間を出てから廊下を右に曲がり、階段を昇った先に城仕えの役人達が住む居住区が備えられている。

 かつて自分が騎士団長としてのロールをこなしていた時期に何度も来た場所だが、100年の月日の変化が感じられる。当時とは比較にならないほど快適になっていた。居住区の一番奥の豪華な一室がカーズ時代に与えられたものだった。

「ここです。鍵はこれを。では準備が整いましたら迎えを寄こしますので」

 カードキーを手渡され、恭しくお辞儀をするとアステリオンは来た道を引き返して行った。当時は普通の鍵だったのが進歩したものである。手にしたカードキーを扉にかざすと両開きの扉が自動的に開いた。

 中に入ると、自室は当時のまま残されていた。壁には鎧姿のカーズの勇ましい自画像。棚にはカシューから受勲した数々の勲章が所狭しと飾られている。

「ここはしばらく来てなかったけど、何だか懐かしく感じるな」

 とりあえず謁見で無駄に疲れたので、巨大なベッドにダイヴしようかと思ったが、今の自分は返り血などで装備が酷く汚れている。飛び込みたい気持ちを抑えながら、まずはなんとなく催して来たのでトイレに向かう。今のこの状況が現実ならば、ログアウトして自宅のトイレに行くこともできない。覚悟を決めてトイレに入り、スカートをたくし上げて洋式の便器に座り、下着を降ろした。

「我慢がまんガマン……」

 普段とは違う感覚で小便が流れて行く。なんてことだろうか、これからはこの身体と現実的に向き合わなくてはならなくなってしまったのかもしれない。何とかしてログアウトする方法を見つけなくてはならないという思いが一層強くなった。と同時に自分の身体とはいえ何とも言えない罪悪感が駆け巡る。

 自己嫌悪しながら便器に座っていると、突然トイレのドアが向こうからバタンと開けられた。独りだと思って鍵をかけるのを完全に忘れていた。

「カーズ様なのですか?! え? 女の子……?」

 カリナの方を見て驚いた顔をしているのは、長い銀髪ストレートで美しい翠眼にメイド服を着たエルフとは異なる妖精族のルナフレアだった。

 エデンの幹部には側仕えの世話役があてがわれる。彼女はカーズに仕えていたNPCであるが、今目の前にいる彼女はまるで本当の命を吹き込まれた一人の人間の様に感情が感じられた。しかし、今はそんなことを悠長に考えている場合ではない。

「貴女は誰ですか? ここはエデン王国騎士団長カーズ様のお部屋ですよ」

「あ、いや、俺、いや、私はカーズの妹のカリナだ。とりあえず事情を説明するから出て行ってくれ!」

 あたふたしながら弁明すると、ルナフレアもここがトイレであると気が付いて我に返ったのか、「失礼致しました」と言いながらそそくさとドアを閉めて出て行った。

「はー、そういえばこいつがいたんだった……。しかもなんちゅう現場を見てくれてんだよ……」

 溜息を吐いて処理を済ませ、居たたまれない気分でトイレを後にする。初めての女性体での経験が悪夢に変わった瞬間である。

 外に出ると、申し訳なさそうに頭を下げたルナフレアが待っていた。キッチンの方からほんのりと料理の香りがする。さっき姿が見えなかったのはそういうことかとカリナは納得した。

「先程は申し訳ありません。カーズ様が帰還されたのだと思い込んで居ても立ってもいられず……」

「いや、確認しなかった俺も悪かった。許可されたとはいえ君がいることを完全に忘れていたから」

「いえいえ、それにしてもカーズ様に妹君がいらっしゃったなんて。そんなことは一度も聞いたことがなかったものですから」

 それは当然である。本来何の関係もないサブキャラ、妹設定も先刻カシューが勝手にでっち上げたものに過ぎない。両者の間に何とも居心地の悪い空気が流れる。

「にしても、貴女の様な綺麗な女の子が「俺」なんて言ってはいけませんよ。折角こんなにも可愛らしい姿をなさっているんですから、丁寧な言葉遣いを心がけてくださいね」

「はぁ、善処します……」

 気まずい空気が流れていたとき、入り口からアステリオンが入室して来た。

「忘れてました! ルナフレア、此方はカーズ騎士団長の妹君です。彼女は陛下の命令で此処に住んで頂くことになったのでお世話を御願いしま、す……?」

 一瞬で奇妙な雰囲気を感じ取ったのか、彼の声は途中から上擦っていた。それでもこの空気を変えてくれた客人にカリナは心の中で感謝した。

「アステリオン様、そういうことでしたか……。承知致しました。それではこれからはこのルナフレアがカリナ様にお仕え致します。先ずは汚れた衣服を取り換えて……」

「ええ、お願いします。準備ができ次第、陛下の執務室に来るようにとのことですので。では私はこれで」

 用件だけを伝えると、さっさと彼は退室してしまった。

「あ、あのー」

「はい、何でしょうカリナ様?」

「君のことは兄から聞いているよ。ずっと留守にして済まない。でもいつ帰って来てもいいように綺麗にしてくれていたんだな。兄に代わって礼を言わせて欲しい。ありがとう」

 実際は本人なので胸が痛んだが、感謝の気持ちは本物だった。それを聞いたルナフレアの瞳から一筋の涙が零れる。

「ありがとうございます……。もうずっと会えないのかと思っていましたから、少しでも手掛かりが見つかって嬉しいです。カーズ様が帰還されるまで、貴女のお世話をしっかりと務めさせて頂きますね」

「そこまで思ってもらえているんなら、兄も喜んでいると思うよ。こちらこそこれからよろしくお願いするよ」

 カリナは申し訳なさもあって頭を下げた。側仕えのNPCに実はこんな感情があったのかという驚きもあった。いや、今は本当に普通の同じ人間なのかもしれない。VAOに起きた変化はただのアップデートなどではないのだろう。

「それで、カーズ様は今何処にいらっしゃるのですか? 妹のカリナ様ならご存じではありませんか?」

 やはりその質問が来るとは思っていたカリナは、何とか誤魔化そうと頭をフル回転させる。

「あ、いや、多分何処かで武者修行の旅をしてるんじゃないかな? 偶然再会したときにエデンに行って来いって言われただけだから、今は何処にいるのかまでは……」

「そうでしたか、さすがはカーズ様ですね。今もなお高みを目指して修行の旅を続けているのですか……」

 嘘を吐いたことに罪悪感を感じたが、今のサブキャラの自分がカーズだとは言っても信じてもらえないだろう。そもそもこの状況でサブキャラとかメインキャラとか通じるのかも分からないからである。それでもカーズが生存していることの証拠にはなったのか、彼女の顔には安堵の表情が浮かんでいた。

「では、汚れた装備を洗濯しますね。この奥に浴場がありますので汚れを落として来て下さい。その間に着替えを用意しておきますから」

 ルナフレアは笑顔でそう言うと、パタパタとキッチンに走って行った。料理の途中だったのを邪魔してしまったことをカリナは申し訳なく思った。

 しかし風呂か、とカリナは思った。VRゲームの部屋の設定上そういうものが設置されているが、ゲーム中にプレイヤーが風呂に入ることなど基本的にない。装備もステータス画面上で切り替えれば瞬時に切り替わる。返り血で汚れるなんてことも今迄はなかったことである。だが今は明らかに現実である。

「はぁ……、覚悟を決めるかー」

 長い溜息を吐いて、カリナは浴場へと進んだ。脱衣所で意を決して纏っていた装備に下着を一気に脱いだ。ゲーム時代には決して見えなかった乳房の先端までがちゃんとある。これは現実だと改めて理解した。そのまま衣服を備えられていた洗濯籠に突っ込み、浴場に突入した。

 いきなり湯船に浸かるのはまずいと思い、シャワーを流して、置いてあったシャンプーやボディソープで身体を隅々までゴシゴシと洗う。だが女性の肌が繊細なせいで強く擦ると少々痛みがした。仕方がないので優しく洗う。そして長い髪は量が多く、洗うのも濯ぐのも手間がかかった。

 漸く全身を洗い終えると、湯船に深く浸かった。髪を浸けてはいけないというのは何となく知っていたので、タオルを頭に巻いて髪の毛が湯船に浸からない様に注意した。

「はぁ、女子の風呂が長いはずだよ……」

 カリナは人知れず女性の苦労を思い知った。独りで使うには広過ぎる湯船に浸かっていると、今まで緊張していた身も心も解きほぐされていくように感じられる。独りでスーパー銭湯を貸し切っているかの様な感覚は贅沢過ぎる。

 うとうとしかけたところで、このままでは居眠りをしてしまうと思い、さっさと浴場を後にした。

「げっ……!」

 全裸で脱衣所に出ると、ルナフレアと恐らくカシューが派遣して来たメイド部隊が待機していた。リボンやひらひらのレースが付いたゴスロリっぽい衣装を見せびらかして来る。カリナは一瞬で理解した。「あ、これは着せ替え人形にされる展開だ」と。

「キャー! 本当に可愛い! それに小柄だけどスタイルも抜群ね! これは着せ甲斐がありそう」

「あの厳ついカーズ隊長にこんな妹がいたなんてねー」

「だよねー、全然似てないわ!」

 メイド達は好き勝手なことを口走りながら、カリナの全身をバスタオルで拭き、持って来た衣装を着せて来た。カリナは女性達のパワーに為す術もなくロリロリな衣装を着せられた。「もう、勘弁して欲しい……」カリナの心の叫びは虚しく霧散した。

「これで戦えるんだろうか……? スカートはまあ、そこまで短くはないけど。それとブーツはちょっとヒールが気になるかも」

 着せ替えられた衣装はどう見ても一般冒険者が旅をする時に身に付ける装備には見えない。上から羽織った白いロングコートには袖や胸元にリボンやフリルがこれでもかと付いている。下着も上等なレースでできた物を身に付けさせられた。

「ご心配なく。これでもそこいらの冒険者の装備よりも格段に防御性能が高い一級品です。陛下が私達に機能とファッションを両立させた装備を生産するようにと仰られたので、我々は日々研鑽を怠っていませんからね!」

 メイド部隊のリーダーのリアと名乗った女性が胸を張った。あいつは何をやっているんだとカリナは心の中で溜息を吐いたが、性能が良いのなら問題はない。置いていたソードと刀を腰に装備すると、まあ何とか一端の美少女冒険者に見えなくもない。

「良かったですね、カリナ様。これで何処へ出しても立派な淑女に見えます!」

 興奮気味にルナマリアが言う。まあ彼女達が満足したのならそれでいいだろう。そのときは軽く考えていたカリナだが、その後新作が出来る度に着せ替え人形にされる運命をまだ彼女は知らなかった。

「は、ははは……、わざわざありがとう。助かったよ……」

 カリナはそう答えるしかなかった。

 ◆◆◆

 メイド隊が引き返して行ったので、ルナフレアの夕食を頂いた。カーズの好物を反映しているらしく、それは本人であるカリナの口にも勿論合うものだった。味覚も完全に現実世界のそれと変わらない。食べると満腹感を得られるのも通常はVRで体験できないものだった。

「やはり妹君なのですね。カーズ様と好みが全く同じなのですから」

「あ、ああ、そりゃあね……」

 すっかり時間が経ってしまったが、満足したカリナはルナフレアに見送られてカシューの執務室へと向かった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 聖衣の召喚魔法剣士   108  制約とカグラの慈愛

     アリアの部屋を辞したカリナは、重い足取りでカグラと隊員が待つ貴賓室へと戻ってきた。   扉を開けると、そこには既に豪勢な昼食がテーブルいっぱいに並べられていた。アレキサンド名物の肉料理や、彩り豊かな野菜のテリーヌ、そして数種類の果物。カグラは優雅にフォークを動かし、隊員は口の周りをソースで汚しながら夢中で肉にかぶりついている。「おかえりなさい、カリナちゃん。どうだった?」 カグラがグラスを置き、振り返る。その茶色のミディアムヘアがふわりと揺れ、穏やかな表情の中に鋭い知性が光っていた。「こちらは一応、資料から禁忌の術などの解析が終わったわ。恐ろしい術式ばかりだったけれど……今後はこれが悪用されないように、対策を練らないとね」「ああ、お疲れ様。……悪い、私も少し食べるよ」 カリナは空いている席に座り、まだ温かいローストビーフを皿に取り分けた。一口食べ、その旨味に少しだけ心が安らぐのを感じながら、カリナは静かに口を開いた。「彼女は……間違いなく『女神』だ。この世の理の常識を遥かに超える存在だ」 その言葉に、カグラの手が止まる。「何か分かったの?」「ああ。彼女が探している人物は、私である可能性が高い。だが、この世界ではアバターという仮初めの姿が邪魔をして、魂にある目印がはっきり見えなくて、そこまで確証が持てないらしい」 カリナはナイフを握る手に力を込める。「それに……この世界から次元を斬り裂いて脱出することなど簡単だ、とも言っていた。私達が必死に生きているこの世界の理屈など、彼女にとっては取るに足らないことなんだろうな」「次元を斬り裂く……? まるでSF映画ね」「笑えない話だがな。……それと、彼女はその人探しの合間の暇潰しに、このVAOをプレイしていたPCの一人でもあるそうだ」 カリナが告げると、カグラは目を丸くし、やがてクスクスと笑い出した。「ふふっ、あはは! 神様がネトゲをするなんて、ずいぶんと俗っぽいのね。親近感が湧くような、畏れ多いような……」「全くだな。だが、その力は本物だった」 カリナは表情を引き締める。ここからが、アリアから聞いた最も重要な情報だ。この世界が虚構であり、悪魔以上のとんでもない存在が創った実験場であること。それをカグラに伝えようと、口を開きかけた瞬間――。「――っ……ぐぅっ……!」 ドクン

  • 聖衣の召喚魔法剣士   107  女神の言葉

    「いらっしゃい、カリナさん。まあ、立ったままではなんですし、掛けたらどうですか?」 アリアは優雅な仕草で、向かいの席を手で示した。テーブルの上には、既に湯気を立てる二つのティーカップ。最高級の茶葉の香りが、部屋の中に満ちている。まるで、カリナがこのタイミングで訪ねてくることを、最初から知っていたかのような準備の良さだった。 カリナは一瞬躊躇したが、意を決して椅子を引き、アリアと対面する形で腰を下ろした。「いただきます」 勧められるままに紅茶を一口含む。渋みがなく、花のような芳醇な香りが鼻腔を抜ける。それは、毒など入っていない、純粋なもてなしの一杯だった。カップをソーサーに戻し、カリナはその碧眼を細めて、目の前の美女――自分と瓜二つの髪色を持つ、違いはカリナの毛先が金髪くらいの、謎の存在を見据えた。「……単刀直入に聞く。あなたは一体、何者なんだ? なぜ私のことを知っている? そして……先ほど言っていた『女神』というのは、本当なのか?」 矢継ぎ早に繰り出された質問に、アリアはカップを口元で傾け、ふふっと楽しげに笑った。「せっかちですねぇ。でも、答えは先ほど言った通りですよ。――女神です」 またしても、はぐらかすような返答。だが、その言葉には嘘の匂いがしない。それどころか、彼女が纏う空気そのものが、人知を超えた何かであることを雄弁に物語っていた。   カリナは深呼吸をし、ずっと胸の内に秘めていた「確信」をぶつけることにした。「……私は以前、ある場所で『真実』の一端に触れた」「ほう?」「『死者の迷宮』の最深部……そこにあった祭壇の鏡だ。私はそこで、現実世界で死に別れたはずの幼馴染――『彩』と再会した」 カリナの脳裏に、あの時の情景が蘇る。鏡の向こうで微笑んでいた、懐かしくも切ない少女の姿。「彼女の髪は、生前のような赤茶色ではなく、透き通るような銀髪に変わっていた。そして彼女は言ったんだ。『女神様に、別の世界に転生させてもらった』と」 アリアの手が、わずかに止まる。「さらに彼女はこうも言っていた。『その女神様が、今、あなたのことを探している』と。……今の私がいるこの世界では因果が正しく回っていないため、私がトラブルに巻き込まれやすくなっているとも教えてくれた」 カリナは畳み掛けるように言葉を続ける。「それだけじゃない。先日、私の

  • 聖衣の召喚魔法剣士   106  アリア

     謁見の間には、レオン王の宣言が重々しく響き渡っていた。   一週間後に開催される剣術大会。それは、人類の脅威に対抗するための精鋭を選抜する重要な儀式でもある。しかし、カリナには一つ、どうしても確認しておかなければならない懸念があった。「陛下。剣術大会ということは……まさかとは思いますが、真剣を使う訳ではないのですよね?」 冒険者ギルドの訓練や一般的な模擬戦では、刃引きをした剣や木剣を使うのが通例だ。Aランクの実力者同士が真剣でぶつかり合えば、手加減をしたとしても事故は避けられない。だが、レオン王は鷲のような鋭い瞳でカリナを見据え、短く答えた。「いや、真剣での立ち合いになる」「なっ……真剣、ですか?」 カリナが眉をひそめると、隣に控えていたカグラも扇子で口元を覆い、懸念を示した。「陛下。いくら腕に覚えのある者同士とはいえ、真剣勝負となれば、下手をしたら死傷者が出る恐れがございますわ。未来の戦力を選抜する場で、有望な若者が命を落としては本末転倒では?」「うむ、そなたらの言い分はもっともだ。だが、案ずることはない。それについては、ここにいるアリア殿が、特別な『魔道具』を準備してくれているのだよ」 王の言葉を受け、アリアが一歩前に進み出た。彼女が何もない空中に手をかざすと、誰も見たことがない未知の魔法陣が展開され、そこに闘技場の様子を模した鮮明な立体映像が投影された。「ご心配には及びませんよ。私が開発した、この『身代わりの水晶』があれば、誰も死ぬことはありません」「身代わりの水晶……? ずいぶんと大きいな」 カリナが驚くのも無理はない。投影された映像では、闘技場の舞台の両端に、優に人ひとり分の大きさがある巨大な水晶が設置されていたからだ。「はい。大会には大観衆が押し寄せますから、遠くの客席からでも状態が視認できるよう、このサイズに設計しました」 アリアはカリナ達に向き直り、落ち着いた丁寧な口調で説明を始めた。「これは対象の魔力と生命力をリンクさせる特殊な魔道具なんです。勝負の前に、この水晶に自分の魔力を流して記憶させておけば、戦闘で受けたダメージは全てこの水晶が肩代わりしてくれますよ」 アリアはニッコリと微笑み、続ける。「例えば、腕を斬られたとしましょう。その瞬間、痛みと衝撃は走りますが、肉体には傷一つつきません。代わりに、舞台の端に設

  • 聖衣の召喚魔法剣士   105  レオン国王との謁見と謎の女神

     アレキサンドの朝は、澄み切った青空と共に始まった。   石畳を踏みしめる音を響かせながら、カリナ達一行は街の北端に位置する小高い丘を目指す。そこに鎮座するのは、この国の象徴である巨大な王城だ。 近づくにつれ、その威容が露わになる。   エデンの城が近代的な白亜の優美さを誇るなら、この城はまさに「鉄壁」。切り出された巨大な灰色の岩石を積み上げて作られた城壁は、無骨ながらも圧倒的な重厚感を放っている。   城壁には、エデンの「黄金の獅子」とは異なる、この国の国章――『交差する二振りの剣と鉄壁の盾』を描いた旗が翻っている。装飾は最小限に抑えられ、実用性を重視した矢狭間が並ぶ様は、ここが武を尊ぶ騎士の国であることを無言のうちに物語っていた。「へぇ、近くで見ると迫力が違うわね。飾り気はないけれど、そこがいいわ」 カグラが城壁を見上げ、感心したように扇子を揺らす。やがて、巨大な鉄格子の城門の前に到着した。「止まれ! 何用か!」 屈強な鎧に身を包んだ門番達が、鋭い眼光と共に槍を交差させる。カリナは一歩前に出ると、懐から先日カシューに託された招待状と、自身のAランク冒険者カードを取り出した。「エデン国王カシュー陛下の使いで参りました、冒険者のカリナです。レオン・アレキサンド国王陛下より、招きを受けております」 続いてカグラも、流れるような所作で自身のカードを提示する。「同じく、エデン筆頭相克術士のカグラよ。同行者として許可を頂いているわ」 門番は招待状の封蝋にある王家の紋章と、二人のカードを確認すると、即座に姿勢を正した。槍を引き、ガシャンと音を立てて踵を揃える。「はっ! 失礼致しました! カリナ様、カグラ様ですね。陛下よりお話は伺っております。どうぞ、中へ!」 重々しい音と共に城門が開かれる。   一歩足を踏み入れると、そこは静謐な空気に包まれていた。城内もまた、質実剛健な造りだった。磨き上げられた石の床、壁には歴代の戦いを描いたタペストリーや、交差した剣と盾の紋章が飾られている。   煌びやかなシャンデリアの代わりに、魔法石を埋め込んだ鉄製の燭台が通路を照らし、すれ違う騎士達は皆、規律正しく黙礼して通り過ぎていく。「エデンとはまた違った緊張感があるにゃ……。おいら、背筋が伸びるにゃ」 ケット・シー隊員が、シルクハットの位置を直

  • 聖衣の召喚魔法剣士   104  騎士国アレキサンド

     エデンを出発してから数時間。   ガルーダの背に揺られ、適度な休憩を挟みながら空の旅を続けていた一行の視界に、夕闇に染まり始めた壮大な石造りの街並みが見えてきた。「見えてきたぞ。あれが騎士国アレキサンドだ」 カリナが指差す先には、湖畔に広がる堅牢な城塞都市があった。エデンのような近代的な魔導都市とは趣が異なり、質実剛健な石造りの建物が整然と並ぶ、まさに「騎士の国」と呼ぶに相応しい景観だ。   そして街の北側、少し小高い丘の上には、街を見下ろすように巨大な王城が鎮座している。夕日を反射して輝くその威容は、大陸の中心国家としての威厳を放っていた。「へぇ、立派なものね。質実剛健、武骨だけど美しいわ」 カグラが扇子で口元を隠しながら感心する。「到着にゃ! お腹空いたにゃー!」 ケット・シー隊員が身を乗り出す中、カリナはガルーダに指示を出し、城下の南門前にある広場へと降下を開始した。 ズズーンッ……! 巨大な黄金の鳥が舞い降り、風圧と共に着地すると、南門を守っていた衛兵達が槍を構えて大騒ぎになった。「な、なんだあの怪鳥は!? 敵襲か!?」「ま、待て! 背中に人が乗っているぞ!」 騒然とする衛兵達の前に、ガルーダが翼を収め、カリナ達が降り立つ。カリナはガルーダを送還すると、警戒する衛兵達の前へと歩み出た。「怪しいものじゃない。私は冒険者のカリナ。エデンのカシュー国王の使いで、レオン・アレキサンド国王陛下に招かれて来たんだ」「ぼ、冒険者だと……? だが、今の巨大な鳥は……」 衛兵隊長らしき男が困惑していると、カグラが優雅に歩み寄り、艶やかな笑みを浮かべた。「あらあら、驚かせてごめんなさいね。この子は私の妹分で、凄腕の召喚術士なのよ。ほら、これが身分証よ」 カグラに促され、カリナは懐から冒険者の組合カードを提示した。そしてカグラもまた、自身のカードを取り出して提示する。カリナのカードには、燦然と輝く『Aランク』の刻印と、『カリナ』の名が刻まれている。 隊長がカードを受け取り、その名前を確認した瞬間、彼の目が驚愕に見開かれた。「カ、カリナ……? まさか、あの『ザラーの街』を襲った悪魔と魔物の大軍を、たった一人で殲滅したという……あの英雄か!?」 その言葉に、周囲の衛兵達もざわめき立つ。ザラーの街の防衛戦は、アレキサンド国内でも今伝説として語

  • 聖衣の召喚魔法剣士   103  新たな旅立ち

     カシュー達との会談を終え、出発は明日ということが決まった。その場は解散となり、カリナはエデン王城の居住区にある自室へと戻ってきた。 近代的なセキュリティシステムが導入されているエデン王城。カリナは懐からカードキーを取り出し、リーダーにかざす。ピッ、という電子音と共にロックが解除され、重厚な扉が静かにスライドした。「おかえりなさいませ、カリナ様」 部屋に入ると、すぐに柔らかい声が出迎えてくれた。妖精族の側付、ルナフレアだ。彼女はいつものように慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、カリナの上着を受け取るために歩み寄ってくる。「ただいま、ルナフレア。すまないが、また少し忙しくなりそうだ」 カリナが申し訳なさそうに告げると、ルナフレアは小首を傾げた。「何かございましたか?」「ああ。明日からまた、旅に出ることになった。行き先は北の隣国、騎士国アレキサンドだ」 その言葉を聞いた瞬間、ルナフレアの表情が曇る。美しい翠眼に、心配の色が滲んだ。「明日、ですか……? カリナ様、つい昨日まであんなにお苦しみだったのですよ? 初潮が明けたばかりのお体で、またすぐに旅だなんて……」 彼女はカリナの手をそっと包み込む。その手は温かく、カリナの体調を何よりも案じていることが伝わってきた。この一週間、つきっきりで看病してくれた彼女だからこそ、その心配は深い。カリナは安心させるように、握られた手に自分のもう片方の手を重ねた。「心配してくれてありがとう。でも、もう大丈夫だ。お前の献身的な看病のおかげで、体調は万全だよ。痛みも嘘みたいに引いたしな」 カリナは努めて明るく振る舞い、笑顔を見せる。「それに、今回は戦いがメインじゃない。騎士国アレキサンドの国王に会って、友好を深めるのが主な目的だ。あとは……まあ、ちょっとした剣術大会に参加するくらいだ。危険な任務じゃないし、用が済めばすぐに戻るよ。……それに、今回はカグラも一緒だ」「カグラ様も、ご一緒なのですか?」「ああ。彼女がついてきてくれる。だから何かあっても大丈夫だ」 カグラの名前が出た途端、ルナフレアの表情がふっと緩んだ。「そうですか……。カグラ様がご一緒なら、安心ですね。あの方の実力は私もよく存じておりますし、何よりカリナ様をとても大切に思っていらっしゃいますから」 ルナフレアは安堵の息を漏らし、改めてカリナを見つめた。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status